ハイキングと“いま”の地図 〜GPXデータってダウンロードしてどう使うの!?
1. はじめに
突然ですが、皆さんはハイキングの時にどんな地図を使っていますか? (もしくは地図使ってますか?)
一般的な登山道に対応する地図といえば、例えば昭文社の「山と高原地図」はおなじみですね。最近では、YAMAPやヤマレコなど登山支援系アプリの利用者もずいぶん増えたのではないでしょうか。
今回の記事では「地図」というツールについて、ロングディスタンスハイキングの視点から掘り下げてみたいと思います。
2. 地図を読んで歩く
地図、と聞くと、ある程度登山をかじったことがある人ならば「地形図」「読図」という言葉を連想するかもしれません。
「地形図」は土地の起伏が等高線で描かれている2D地図のこと。国土地理院が発行する縮尺1:25000のものがよく使われます。既存の登山道や林道、人里ならば公共施設や郵便局、神社仏閣などのランドマークも記載されています ▶地理院地図 / GSI Maps|国土地理院 (紙地図はオンラインや書店等でも購入可能)。
地形図を読み解き、向かう先の道の様子や周辺環境を予測したり、周囲に見えている山などを確認、また自分の現在地を把握するための手法が「読図」。アウトドア関連の雑誌やメディアでHow To解説の記事をよく見かけますね。読図の技術を完璧にマスターすれば、ハイキング(登山)の精度と自由度、そして安全性を上げることができます。
山を歩くならば地形図(紙地図)とコンパスを携行して歩くのがセオリー、と教えられ実践している人も多いでしょう。紙地図ならばスマホの充電状態を気にせずに使えます。
国内にあるトレイルの場合、最近は各管理団体などが発行する公式マップも増えてきています。地図は地形図をベースに作られたものが多く、沿線にある水場やトイレ、商店や宿など歩く際に有用な情報が補足されていたりするので、歩く際にはまず入手できるかチェックしてみましょう。
3. ロングディスタンスハイキングと地図
ロングディスタンスハイキングは文字通り長い距離を歩きます。山道だけでなく人里もルートに含まれることの多いこのアクティビティ、その距離が伸びるほど土地勘のないエリアを通ることも増え、必然的に道迷いのリスクは高まります。道標だってしっかりと整備されているかは現地に行くまでわかりません。本線を確実にたどるためにも、地図はあったほうが安心です。
日帰りや数日間~数週間程度のハイクであれば、紙地図の携行は特段難しいことではありません。しかし数か月・数千kmにわたる長いトレイルの場合はどうでしょうか。全線をカバーするために何十枚、何百枚にのぼる紙地図を持ち歩くというのは、なかなか厳しいでしょう。その場合バウンスボックス*を利用してエリアごとに地図を入れ替えていく等の対策方法がありますが、事前の計画と現地での調整が都度必要です。
*バウンスボックス: ハイカーがトレイル沿いの町など補給ポイントに事前に郵送しておく、物資パッケージのこと。予備の装備や食料、医薬品など、頻繁には使用しないアイテムを一つのケースに収め、郵便局から郵便局へと「バウンス(転送)」していく。それらを必要な地点で利用し、また次の場所へ転送することで、ハイキング中に持ち歩く荷物量を軽減できる。
それでは次に、文明の利器である地図アプリの活用について、少し考えてみたいと思います。
4. 地図アプリあれこれ
4-1. マイナーであるが故のジレンマ
地図アプリと聞いてまず思い浮かぶGoogle Map。普段の生活や旅行中に利用する人も多いと思います。山登りの場合は前述の登山支援系アプリが人気。どちらもスマホ等のGPS機能を使い、地図上で自分の現在地を確認できます。登山支援系はオフラインでも使えるので便利ですね。では、これらアプリに共通する特徴は何でしょう?
それは「一般ユーザーから収集したデータに依存する情報」を閲覧する構造であること。これは翻って言うと、一般ユーザーからのデータが得られない限り情報は提供されないことになります。おばあちゃんが細々やってる弁当屋が美味しいけど超ローカルすぎて誰もGoogle Mapにレビュー投稿しないから評価ゼロ、とかありますよね(店自体載ってないとかも)。
注: Google Mapにも登山口などのポイントが表示され、「ハイキングコース」と記載されているものもありますが、元々Google Mapは都市地域向けにプログラムされていて、ハイキングに用いるには適しません。海外では過去に重大な遭難事故も発生しています。
登山支援系アプリでは登山者の通過記録が表示ルートやコースタイムの算出元になっていて、歩かれていないルートは地図上に表示されません。悲しいかな、国内ではまだまだニッチと言わざるを得ないロングディスタンスハイキング。歩いてきたルートの線がある地点でぷっつり切れている、ということもあるようです。
出展: 「YAMAPの地図の読み方」「標準コースタイムの採用について」「ヤマレコアプリと他の登山地図アプリの違いはなんですか?」「ヤマレコの情報を利用する上で気をつける点は?」
4-2. 他人の個人記録に頼るデメリット
加えて、登山支援系アプリは基本的にユーザー個人の山行記録を閲覧するプラットフォームなので、情報の精度や鮮度もまちまちです。標準タイムを参考に計画を立てたが自分の歩行能力が見合わず遅着になる、思っていたよりも激しいアップダウンで体力を消耗してしまう、といったミスマッチが起こったり、トレイルの閉鎖区間やリルート箇所などをキャッチアップできない、という可能性もあります。
また、登山支援系アプリは「一つのトレイル」を俯瞰して把握できるように最適化されているわけではありません。仮にルート全体が地図上に表示されていたとしても、紐づいた複数の記録をたどりながら自分用に長期/長距離のプランを練る、というのは正直やりづらいと思います。
4-3. 海外トレイルで支持されるFarOut

ところで皆さん、「FarOut」(ファーアウト)というアプリをご存じでしょうか? ハイキングやサイクリング、ラフティングなどの長距離アドベンチャー向けに特化した、GPS対応のオフラインナビゲーションツールで、世界中250以上のルートガイドを提供しています(日本国内のトレイルにはまだ対応していません)。▶詳しくはこちら
2012年に当時「GUTHOOK」という名前でリリースされたこのアプリは、PCTハイカーであるRyan “Guthook” LinnとPaul “Tangent” Bodnarの2人が共同開発しました。彼らは自分たちの経験を活かし、地図/ガイドブック/ユーザー投稿によるトレイル情報の更新などを単一アプリに統合、包括的ハイキングガイドとして従来の紙地図やガイドブックを効果的にデジタル化したのです。その結果、スルーハイカーたちのパックパック重量を大幅に軽減し、今では海外のロングディスタンストレイルを歩くハイカー界隈ではよく知られる存在になりました。
彼らは現在数十のトレイル団体や書籍著者・出版社とも連携。水場やテントサイトといったウェイポイントやトレイルの閉鎖や迂回路などの最新データを公式に取得し、ユーザーに信頼性の高い情報を提供しています。最近のトピックとしては、2024年8月にATC(米アパラチアントレイルの運営本部)と提携し、FarOutがATの公式ハイキングアプリとなりました。
ちなみに、毎年11月下旬のブラックフライデーにはアプリ内課金の大幅ディスカウントが実施されます。




5. トレイル公式GPXデータ
さて、ここで日本のハイカーの皆さんに朗報です。国内の複数のトレイル団体が「公式GPXデータ」をそれぞれ公開しています。これを活用すれば、自分の歩きたいトレイルの正規ルートをまるっとスマホアプリの地形図上に表示させ、GPS機能を使い現在地もパッとわかります。使用するアプリによってはオフライン環境でも作動するので、山奥でもへっちゃらです。
ではさっそく「●●(ナントカ)トレイル GPX ダウンロード」と検索してみましょう。…いかがですか? 全然関係ないトレラン大会のデータなどが出てくることもありますが、少し目を凝らしてみてください。もしうまく見つけられない場合は各トレイル団体に尋ねてみるとよいでしょう。
※トレイルによってはGPXデータが公開されていない場合もあります。
5-1. そもそも、GPXデータとは?
スマホやGPS機器などで記録した位置情報(GPSログ)を保存・共有するための標準的なファイル形式のことをGPXと呼びます。データには緯度や経度、標高などが含まれていて、さまざまなソフトやアプリで開いたり、インポート/エクスポートが可能です。ファイル拡張子は「.gpx」が一般的。
各トレイル団体は、管理するトレイルの正確な位置情報をこのGPXファイルに保存し、公式GPXデータとしてユーザーに提供しているのです。
5-2. GPXデータを活用するためのアプリ例(日本製)
■ スーパー地形 ▶公式サイト

アプリのダウンロード
iOS (Apple)はこちら Android OSはこちら
「カシミール3D」開発者・DAN杉本氏が開発した、‟地形を感じる地図アプリ”。最大の特徴はなんといっても多彩な地図表現。地理院地図とGoogleマップを重ねたり、課金すれば100種類以上の地図を利用できます。
■ ジオグラフィカ (Geographica) ▶公式サイト

アプリのダウンロード
iOS (Apple)はこちら Android OSはこちら
アプリ開発者・松本圭司氏が開発した、キャッシュ型オフラインGPSアプリ。携帯圏外の山奥でも海の真ん中でもスタンドアローンで動作し、無料版でも多くの機能が使えるのが嬉しいポイント。英語表示にも対応しています。
5-3. GPXデータを地図アプリで読み込んでみよう
地図アプリとGPXデータの用意ができたら、さっそくトライしてみましょう。
ダウンロードしたGPXデータを、使いたい地図アプリで開く。
ざっくり言うと、これだけです。使うアプリや端末などの環境によって、手順や画面表示が少しずつ違うかもしれませんが、決して難しいことはありません。
How Toの概要をまとめたPDFを用意しました。下の画像をクリックするとご覧いただけます↓
注: ここでは一例として、トレ研研究員所有のiPhoneを使い、みちのく潮風トレイルのGPXデータを「スーパー地形」で読み込む手順を紹介しています。
なお、各アプリの詳しい使い方については、上記公式サイト等を各自で参照してください。
6. 地図アプリを使うならば
ここまで、ロングディスタンスハイキングと地図について、諸々考察してきました。最終的な着地点は便利な地図アプリの活用方法でしたね。
ハイキング中に地図を使うかどうか、使うなら紙かアプリか、両方持っていくのか、それはハイカー自身が選択することなので、それぞれのスタイルに合わせてぜひいろいろと試してみてください。
地図はアプリ一択、という人は、地図を頻繁に見たりGPSログを取っていたりすると、スマホのバッテリーを使い切ってしまうリスクがあるので注意しましょう(オフラインで作動するアプリならば、スマホをフライトモードに切り替えておくと消費電力を抑えることができます)。モバイルバッテリーと充電器を携行し、道中立ち寄れそうな充電スポットの確認も忘れずに。
7. さいごに
皆さん、忘れないでくださいね。読図(地形図を理解する)はできるに越したことはありません。読図できるということは、自分のハイク/山行を管理できる、ということ。今、自分がどこにいるのか、どこから来てどこへ向かうのかが見える、自分の体力と相談しながら状況を見て続行/撤退の判断ができる。読図はハイカー自身を守る強力な武器です。(登山支援系アプリのルート線も、表示されているのは地形図の上ですよ。)
あと、日本の登山地図の多くに記載されている標準コースタイムですが、運動生理学的な研究結果など科学的根拠に基づいて算出されている、とは言ってもあくまでも目安の数値です。これに振り回されないようにするためにも、ぜひ自分の歩行速度を把握して、距離に対する時間感覚を磨いみてください。自分が平地を1km歩くのに何分かかるか? 上り坂は? 下りだったら? 路面が土なら? アスファルトは? 階段は? トレイルを歩きながらいろいろな条件下で自分を観察してみると、少しずつペースの傾向が見えてくると思います。
この感覚がつかめると、歩く距離から到着時間を予測する、歩ける時間数からその日の宿泊地を決める等、ロングディスタンスハイキングの際にも役立つので、おすすめです。(参考までに、海外のトレイルは道標もデータブックも、書いてあるのは距離だけです。)
*注記*
- 当記事に記載されている内容はすべてトレ研調べです。もしもより良い地図アプリや使い方をご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひトレ研まで情報をお寄せください。
- 当記事の内容について、間違いのご指摘やお気づきの点などもお待ちしております。
- 今後、このような読み物記事を含めたトレ研からの発信について、ハイカーの皆さまのご意見も伺いながらより良いものにしていければと思っております。
- 地図アプリやGPXデータの使用については、自己責任で行っていただくようお願いいたします。

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